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安易な内定取り消しは危険

塚本 侃| 2005年 11月号掲載

 内定後に、性格が陰湿であることを理由にしたり、事前研修の欠席を理由に内定を取り消しても会社は責任を負わなくてもいいのですか。

 わが国では新規学卒者を在学中に採用し、卒業後に入社させるという採用方法が採られていますが、正式入社前の者を採用内定者と呼んでいます。これらの人達との労働契約は、契約の成立時期は別として雇うという約束自体は既になされていますが、 現実に就労が始まるのは一定の期間を経過した後という始期が付けられており、一定 の事由に該当した場合には解約できるという解約権も留保されていると考えられてい ます。

 では事前研修の欠席の場合はどうでしょうか。この場合には労働契約がいつから成 立するのかが問題になります。単に電話等で内定の通知をしているだけで正式採用決 定手続が残されている場合には労働契約は成立していないと考えられ、事前に説明し て学生の了解を得ていない限り、事前研修を義務付けることは出来ず、それを欠席さ れたからといって内定を取り消すことはできません。

 これに対して内定通知の後に必要書類の提出や入社日の通知等がなされていれば、労働契約は効力を生じていますから、事前研修を義務付けることは可能です。しかし、 この場合でも、出席拒否に対して常に内定取消が可能という訳ではありません。例え ば、学生が学業への支障等という合理的な理由に基づき、事前研修への参加を免除し て欲しいと申し出があった場合には、これを免除すべき信義則上の義務を会社は負っ ており、内定取消は出来ないとされています。

 次に、性格が陰湿であることを理由に内定取消が出来るかを考えてみますと、採用 内定というのは一定の事由に該当する場合には解約できるとされていますが、その事 由というのは内定当時知ることができないか、または知ることが期待できない事実で あり、かつ、内定取消が社会通念上相当と認められることが必要と考えられていま す。そうしますと、性格が陰湿であるということは、採用内定当時から分かっていた あるいは分かることが出来たと考えられますので、内定取消は認められないことにな ります。

「採用内定」

内々の決定ということで安易に内定取消を行うことは危険です。裁判所は企業側からの恣意的な内定取消には厳しい態度を取っています。

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桜樹法律事務所の企業法務

昭和22年生まれ。
熊本高校-中央大学法学部卒。昭和56年弁護士登録。平成15年熊本県弁護士会会長を務めたほか、日本弁護士連合会、九州弁護士会連合会で要職を歴任。熊本県収用委員会会長。

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