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株主の会計帳簿等閲覧謄写請求と競業への利用

馬場 啓| 2014年 8月号掲載

 当社は、映画・音楽等の文化事業の企画・製作を業務内容とする株式会社です。Aは、以前当社の役員をしていた者で、当社の発行済株式の5%を保有しています。
このたび、当社は、Aから、会計帳簿の閲覧謄写請求を受けました。Aは、最近、新会社を立ち上げたばかりで、未だ営業は開始していませんが、もし会計帳簿等の閲覧謄写を認めると、今後、その情報が当社との競業に利用されるのではないかが心配です。
 Aの請求に応じなければならないのでしょうか。

 会社法は、総株主の議決権の3%以上、または、発行済株式の3%以上を有する株主は、会社の営業時間内はいつでも、会計帳簿等の閲覧または謄写を請求することができることとしています。これは、取締役の経営を監督するために設けられた株主の権利です。つまり、株主は、取締役に対する違法行為の差止請求権や取締役の責任追及の代表訴訟、さらに取締役の解任請求等を通じて取締役の業務執行を監督し、是正することができますが、そのためには会社の業務や財産の状況を十分に把握する必要があります。このために、株主には会社の会計帳簿等について、閲覧や謄写する権利が認められているわけです。

 Aは御社の発行済株式の5%を保有しているということですから、この権利を有しているといえます。
 しかしながら、他方、会計帳簿等は、会社の営業秘密に直接関わることから、その閲覧謄写請求は常に認められるわけではありません。会社法は、請求の目的が不当と認められるいくつかの場合には、会社は株主の閲覧謄写請求を拒絶できることとしており、そのうちの一つに、請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業(競業)を営み、またはこれに従事するものである場合をあげています。そして、この競業は、現に競業を行っている場合に限らず、近い将来、競業を行う蓋然性が高い場合も含まれると解されています。

 したがって、Aが立ち上げた会社が、映画・音楽の文化事業の企画・製作を業務内容とする等、御社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、または近い将来、御社との競業の蓋然性が高ければ、御社は、Aの会計帳簿等の閲覧謄写請求を拒絶することができます。
 なお、このことは、仮にAが実際には会計帳簿の閲覧謄写によって知りうる情報を競業に利用するつもりがなかったという場合でも同様です。会計帳簿等の閲覧謄写請求の拒絶は、請求者に会計帳簿等の情報を競業に利用しようとする主観的意図がなくても、請求者が競業を行う者であるという客観的事実があれば足りるというのが判例だからです。

 以上に対し、Aの会社が全く別の業種であって、Aが客観的にも御社との競業を行う者であるという事実が認められない場合には、Aが具体的な理由を示して会計帳簿等の閲覧謄写を請求してくれば、これを拒むことはできません。Aが裁判所に対して会計帳簿等の閲覧謄写の仮処分の申立てをしたり、閲覧謄写請求訴訟を提起したりすることも考えられますので、十分に注意してください。

「会計帳簿」「株主の閲覧謄写請求権」「競業」

株主は会社の会計帳簿等の閲覧謄写請求権を有している。しかし、株主が会社と競業し、または将来競業する蓋然性がある場合には、会社は請求を拒否できる。

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桜樹法律事務所の企業法務

熊本市出身、昭和35年生まれ。
早稲田大学政治経済学部卒。95年弁護士登録。2015年度熊本県弁護士会会長、熊本県情報公開・個人情報保護審議会会長、熊本市入札等監視委員会委員長。

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