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取締役は株主総会の決議がなければ退職慰労金の請求ができないか?

馬場 啓| 2015年 1月号掲載

 私は、20年間にわたってX株式会社の取締役を務めていましたが、兄であるX社の社長(代表取締役)との間で経営方針についての意見の違いが生じたことから、今年の7月31日、取締役を辞任しました。X社を辞めるにあたっては、退職慰労金として3000万円をもらう約束になっており、X社からその旨の支給決定通知も受けていました。

 ところがその後、X社は、このような退職慰労金の支給については、定款に定めがなく、株主総会の決議もないとして、3000万円の支払を拒んでいます。

 X社の定款上、取締役に対する退職慰労金の金額は定められていないことはそのとおりです。また、株主総会の決議がないのも間違いありませんが、そもそもX社は私たちの父が創業し、親族だけを株主とする同族経営の会社であって、これまで一度も株主総会や取締役会が開かれたことはないのです。このような場合であっても、私は退職慰労金の支給を受けることができないのでしょうか。

 会社法は、取締役の報酬や退職慰労金等は、定款に定めがない場合には、株主総会の決議によって金額又は具体的な算定方法を定めることとしています。これは、取締役の報酬や退職慰労金等の額について、取締役や取締役会によるいわゆる「お手盛り」の弊害を防止するためです。

 そこで、社内で内規等により退職慰労金支給基準を定めていたとしても、定款や株主総会の決議がない以上は、取締役は会社に対して退職慰労金を請求することはできないのが原則です。

 しかしながら、判例上、例外的に、定款や株主総会の決議がなくても取締役が退職慰労金を請求することが認められる場合があります。そのうちの一つが、本件のように、これまで一度も株主総会や取締役会を開催したことがないような同族経営の会社の場合です。つまり、前述のとおり定款や株主総会の決議が要求されるのは取締役による「お手盛り」を防止して株主の利益を守るためですが、X社のような場合、これまで全てを取締役に委ね、そもそも株主が株主総会の決議によって意思を表明する手続自体が行われていなかったのですから、株主総会の決議を経ずに退職慰労金の額が決められたとしても、必ずしも株主の利益が害されるわけではありません。むしろ、本件のように、X社が一旦、3000万円の退職慰労金を支給するとの決定通知をしておきながら、その後、定款の定めや(これまで一度も開催されたことのない)株主総会の決議がなかったことを理由に支払を拒むことは、衡平の理念ないし信義則に反するといえます。

 実際には、この他の諸般の事情も考慮して個別・具体的に判断されることになりますが、お尋ねのケースでは、退職慰労金の請求が認められる可能性が十分あると考えられます。

「取締役の報酬」、「退職慰労金」、「株主総会決議」、「お手盛り防止」、
「同族経営」


定款の定めも株主総会の決議もなくても、取締役の退職慰労金請求が認められる場合がある。

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桜樹法律事務所の企業法務

熊本市出身、昭和35年生まれ。
早稲田大学政治経済学部卒。95年弁護士登録。2015年度熊本県弁護士会会長、熊本県情報公開・個人情報保護審議会会長、熊本市入札等監視委員会委員長。

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