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インターネット上でなされた誹謗中傷への対応
馬場 啓| 2022年 7月号掲載
当社(A社)は、最近、インターネット上でひどい誹謗中傷を受けています。「A社は新型コロナ感染者を働かせている」「A社はブラック企業」等のデマがネット上で流れているのです。どのように対応すればいいでしょうか。
インターネットの普及に伴い、近時はネット上での誹謗中傷等により権利が侵害されるケースが増えています。「A社(御社)が新型コロナ感染者を働かせている」というのは、御社の社会的評価を低下させるものですから、このような情報をインターネットで流す行為は、刑法上、名誉毀損罪にあたります。
これに対し、「A社(御社)はブラック企業である」というだけであれば、名誉毀損罪は成立しません。名誉毀損罪が成立するためには事実を摘示することが必要であるところ、単に「ブラック企業である」というだけでは事実を摘示したとは言えないからです。ただ、侮辱罪の成立には事実を摘示することは必要ありませんので、この場合も侮辱罪が成立する可能性はあります。侮辱罪の法定刑はこれまで「勾留(30日未満)又は科料(1万円未満)」とされていたのですが、芸能人に対するSNSでの誹謗中傷の問題を契機に、今年の6月13日に成立した改正刑法で、法定刑が「1年以下の懲役・禁錮または30万円以下の罰金」に引き上げられたことは記憶に新しいところと思います。
このように犯罪が成立するとは言え、このまま現在のような情報がネットで流され続けていては御社の損害は拡大するばかりです。そこで、御社としては、このような情報が掲載されているサイトの管理者に連絡して(連絡方法としては内容証明郵便、メール等のほか、サイト内に削除の依頼方法が記載されていることもあります。)、当該情報の削除を求めることが考えられます。もしサイトの管理者がこの求めに応じてくれない場合には、仮処分や訴訟等の法的手続をとることも可能です。ただ、他方で表現の自由というものもありますので、裁判所が削除請求を認めるかどうかはケースバイケースです。令和3年3月5日に東京地方裁判所で判決があった事案は、ある病院が、Googleマップ上の口コミでなされた「インフルエンザの検査もせずに怪しい調合ドリンクを渡された」「このドリンクのせいで目眩と吐き気がした」「本当にヤブ医者」等の書込みの削除を求めたものですが、裁判所は、名誉毀損における社会的評価の低下があったといえるかどうかは一般の(ネットの)閲覧者の注意と読み方を基準として判断すべきであるとした上で、上記のような書込みはあくまでも投稿者側の主観に基づくものであって、閲覧者の受け取り方もその域を出ない等として、病院の削除請求を認めませんでした。
次に、御社としては、このような情報をネットで流した相手方に対し、民事上の不法行為責任に基づき、損害賠償の請求をすることが考えられます。ここで問題となるのは、ネット上の投稿等は匿名でなされることが多く、相手方がどこの誰だか分からない場合があるということです。相手方の氏名と住所が分からなければ請求のしようがなく、また、訴訟を起こそうとしても訴状の送達ができません。そこで、このために発信者情報開示請求という手続があります。この手続は、サイトの管理者に発信者のIPアドレス等の開示を求め、さらにこのIPアドレスに基づいてプロバイダに発信者情報(住所、氏名、メールアドレス等)の開示を求める手続です。この手続は現在のところ上記のような二段階の開示請求(そして多くは二段階の裁判手続)が必要ですが、法律(プロバイダ責任制限法)の改正により、本年(令和4年)の10月くらいには手続の簡易・迅速化が図られる予定です。
<削除請求、損害賠償請求のための発信者情報開示請求>
不当なネット上の書込み等に対しては削除請求を。相手方に対する損害賠償請求等の前提として発信者情報開示請求を。