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退職した従業員の競業行為

馬場 啓| 2009年 10月号掲載

 当社は家具の補修・修理を専門とする会社であり、米国のある会社と特殊技術の独占的実施契約を結び、国内でのフランチャイズ事業も展開しています。
 フランチャイズ加盟店への技術指導を担当していた従業員Aが昨年、当社を退職したのですが、退職後、当社と類似の家具補修・修理事業を自ら開業して行っているようです。Aは、退職する際、当社との競業をしない旨の誓約書を差し入れています。
 Aに対して、損害賠償請求や競業の差止請求ができないでしょうか。

 Aに競業避止義務が認められるかどうかがポイントです。
 一般に、従業員が退職後に同種の業務に就くことを禁止することは、従業員がそれまでの知識、経験を生かす途を閉ざすことになり、職業選択の自由に対する大きな制約となります。
したがって、形式的に競業避止特約を結んだからといって、当然にその文言どおりの効力が認められるわけではなく、①競業避止によって守られる利益の性質、②特約を締結した従業員の地位、③代償措置の有無等を考慮し、④禁止行為の範囲や禁止期間が適切に限定されているかを考慮した上で、競業避止義務が認められるか否かが決せられるというのが判例です。
 本ケースでは、①Aの競業によって守られる特殊技術が営業秘密に該当すれば、それ自体、保護の必要性が高いということになりますし、②Aはフランチャイズ加盟店への技術指導を担当しておりある程度競業を禁止されてもやむを得ない地位にあったといえるでしょう。したがって、あとは③代償措置(例えばフランチャイジーとなる途があること等)があり、④競業を禁止する地域や期間が限定されていれば、Aに競業避止義務が認められることになります。
 Aに競業避止義務が認められれば、御社に発生した損害の賠償請求が可能です。
これに対し、競業避止義務が認められても、差止請求まで認めた裁判例はあまり多くありません。ただ、近時、本ケースのような事例で、原告会社の技術が特殊性の高いものであることや原告会社が被告従業員に高度な技術を身につけさせるために多額の費用や手間をかけたことを重視して、2年間の差止を認めた判例もあらわれています。このような事情があれば、御社についても差止請求まで認められると思われます。

「従業員の競業避止義務」

退職した従業員に競業避止義務が課される場合があります。また場合によっては会社の元従業員に対する差止請求が認められることもあります。

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桜樹法律事務所の企業法務

熊本市出身、昭和35年生まれ。
早稲田大学政治経済学部卒。95年弁護士登録。2015年度熊本県弁護士会会長、熊本県情報公開・個人情報保護審議会会長、熊本市入札等監視委員会委員長。

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