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全部取得条項付種類株式による少数株主の排除
馬場 啓| 2014年 3月号掲載
私は甲社の代表取締役をしています。甲社の株式は私が60%持っているほか、共同出資者であるAとBがそれぞれ20%ずつ持っています。
実はこのところ、甲社の経営方針を巡り、株主間で対立が生じています。Aは私の方針に賛成してくれるのですが、Bとの間で考え方に大きな相違があり、会社の運営に重大な支障をきたしています。そこで、Bに株式を買い取らせて欲しいという話も持ちかけましたが、応じてもらえませんでした。
会社の完全子会社化や経営陣による株式買収(MBO)の方法として、全部取得条項付種類株式の取得というものがあると聞きました。この方法を用いてBの株式を取得することはできないでしょうか。
全部取得条項付種類株式というのは、株主総会の決議によって、会社がその全部を取得することができる種類の株式です。
御社が発行している株式は普通株式だと思われますが、株主総会で定款変更すれば全部取得条項付種類株式とすることができます。あなたとAとの株式数をあわせれば80%になりますから、定款変更に必要な株主総会の特別決議(3分の2)を十分に上回ります。
つぎに、全部取得条項付種類株式を取得するためにはさらにその旨の株主総会の特別決議が必要です。これについてもやはり、あなたとAの株式数をあわせることによって、必要な賛成数を上回ることができます。
問題なのは、このような多数決によって、少数株主(B)を排除することが許されるかという点です。もともと全部取得条項付種類株式の制度は、倒産状態にある株式会社が100%減資するような場合を念頭においています。そこで、この制度を本問のようなケースに使うのは制度趣旨の逸脱であるという考え方もあり、裁判でも争われています。しかしながら、これについては、少数株主を排除するという目的があるというだけでは制度趣旨に反するとはいえないとした判例があります。
この判例によれば、お尋ねのケースも、株式を全部取得条項付種類株式とする方法により、Bの株式を甲社が取得することができることになります(同時にあなたとAの株式も甲社に取得されますので、その後、新たにあなたとAに株式を発行することになります)。
ただし、この場合、Bに対して正当な対価が支払われることが必要です。対価が不当であれば、Bから裁判所に対して価格決定の申立がなされることになるでしょうし、場合によっては株主総会の決議自体が取り消されて無効とされる可能性もあります。
さらに、全部取得条項付種類株式の取得は、前提として会社全体の利益のためになされることが必要であり、取締役が自己のみの利益を図って全部取得条項付種類株式の取得を行い、株主の共同利益を損なった場合には、取締役の損害賠償責任が発生することになりますので注意してください。
「全部取得条項付種類株式への転換により可能」
全部取得条項付種類株式の方法による取得も可能だが、正当な対価の支払が必要。また、株主の共同利益を害することはできない。