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会社の利益・取締役の利益

北野 誠| 2014年 7月号掲載

 私は、当社の大株主であり、代表取締役も務めています。今回、私の個人的な借入れに対し、金融機関から会社の保証を付けてほしいと言われております。当社は、取締役会設置会社ですが、今回の保証に関して何か気をつけるべきことはありますか?

 取締役会設置会社では、取締役が次の①~③に該当する取引を行う場合には、取締役会において、当該取引の重要な事項を開示し、その承認を受けなければならないとされています(会社法356条1項・365条1項)。

① 自己又は第三者のために会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき(競業取引)
② 自己又は第三者のために会社と取引をしようするとき(直接取引)
③ 会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき(間接取引)


 取締役の個人的借入れに関して会社が保証を行う行為は、上記③の利益相反取引に該当するため、当該取引を行う取締役である貴殿は、当該取引の重要な事項を開示して取締役会の承認を受ける必要があります。

 なお、会社と利益相反取引を行う取締役及び間接取引により利益を受ける取締役は、特別利害関係人として取締役会の議決に参加できません(同法369条2項)ので、貴殿は取締役会の議決には参加することはできません。 

 また、当該取締役は、当該取引後、遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければならないと規定されているため(同法365条2項)、保証契約を締結した場合には取締役会に重要な事実を報告しなければなりません。

 万一、利益相反取引によって会社が損害を負った場合には、取締役会の承認の有無にかかわらず、対象となる取締役は会社に対し任務を怠ったと推定され(同法423条3項)、自らが任務懈怠のなかったことを証明しない限り免責されず、任務懈怠による損害賠償責任を負います(同法423条1項)。

対象となる取締役は、
(ア)直接取引をした取締役及び間接取引で会社と利益相反する取締役
(イ)会社が当該取引をすることを決定した取締役
(ウ)当該取引に関する取締役会の承認決議に賛成した取締役です(同法423条3項1~3号)。

 利益相反取引のうち、取締役が自己のために会社と直接取引をした場合の損害賠償責任は任務懈怠が当該取締役の責めに帰することができない事由によるものであることをもって免責することができません(同法428条1項)。また、この場合には、取締役の責任の一部免除の規定(同法425~427条)の適用もありません(同法428条2項)。

 このように、利益相反取引については、会社に重大な影響を及ぼす可能性があり、また、取締役の損害賠償に関する規定も特別に設けられていますので、貴殿が大株主であるとはいえ慎重かつ適法な手続きを踏む必要があります。



「利益相反取引」

利益相反取引については、当該取引の重要な事項を開示したうえで、取締役設置会社においては取締役会の、取締役会非設置会社においては株主総会の承認が必要です。
利益相反取引に該当するか否かは、同規定の趣旨が、取締役の地位を利用し、会社の犠牲にし、自己又は第三者の利益を図ることを防止するというものであるため、会社に対して不利益を与えるかどうかが基準となります。

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桜樹法律事務所の企業法務

熊本市出身、昭和55年生まれ。
済々黌高校-九州大学法学部卒。2003年司法試験合格。2005年弁護士登録。日本弁護士連合会民事介入暴力対策委員会委員。日本司法支援センター熊本地方事務局地方扶助審査副委員長。日本プロ野球選手会公認選手代理人。熊本県弁護士会野球部主将。

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