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第三者割当による増資
北野 誠| 2015年 3月号掲載
当社は、非上場ですが株式の譲渡制限のない公開会社です。今回資金調達のために、現在は株主ではない取引先の会社に対して新株を発行しようと考えています。新株発行に際して、どのように価額を算定するか、どのような手続で発行するかなど気を付けるべきことはありますか?
公開会社においては、既存の株主以外の特定の第三者に対して行う新株発行(第三者割当て)については、取締役会の決議のみによってできるのが原則です。しかしながら、第三者割当てについては払込金額が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合には、既存株主の経済的利益の保護のために、募集事項の決定について株主総会の特別決議が要求されています。
特に有利な払込金額とは、公正な払込金額よりも特に低い価額をいいます。そして、公正な払込金額については、会社の資金調達の必要を満たすという観点と既存株主の利益を保護するという二つの観点の均衡から、新株の発行により企図される資金調達の目的が達せられる限度で既存株主にとり最も有利な価額をいうと考えられています。
また、特に有利な払込価額であるにもかかわらず、株主総会の特別決議を経ずに第三者割当による新株発行を行おうとした場合には、法令違反に該当しますので、株主による新株発行の差止請求が認められています。
ご質問の非上場会社の公開会社における株価の算定方法については、最高裁が判断を示しており、「非上場会社の株価の算定については,簿価純資産法,時価純資産法,配当 還元法,収益還元法,DCF法,類似会社比準法など様々な評価手法が存在しているのであって,どのような場合にどの評価手法を用いるべきかについて明確な判断基準が確立されているというわけではない。また,個々の評価手法においても,将来の収益,フリーキャッシュフロー等の予測値や,還元率,割引率等の数値,類似会社の範囲など,ある程度の幅のある判断要素が含まれていることが少なくない。」とし、 「非上場会社が株主以外の者に新株を発行するに際し,客観的資料に基づく一応合理的な算定方法によって発行価額が決定されていたといえる場合には,その発行価額は,特別の事情のない限り,「特ニ有利ナル発行価額」(改正前の商法280条の2第2項)には当たらないと解するのが相当である。」(最高裁判所平成27年2月19日第一小法廷判決、最高裁判所平成25年(受)第1080号損害賠償請求事件)としております。
したがって、客観的資料に基づき、上記のような評価手法を用いて算定された価額であれば、他の評価方法による算定額と比較して低額となる場合であっても、特別な事情がない限り、特に有利な払込金額とはならず、取締役会決議のみによって新株発行が可能であると考えられます。
「新株発行」
株式会社が設立後において資金調達をする方法の一つとして新株発行があります。新株発行については、既存の株主に株式を割当てる株主割当て、取引先や従業員など会社と関係のある特定の第三者に株式を割当てる第三者割当、広く一般に割当てる公募の3種類があります。