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賃貸人が破産した場合の対応
北野 誠| 2010年 2月号掲載
当社が賃借していた店舗建物(以下、「本件建物」といいます。)の所有者である会社が破産手続に入ったという話を聞きました。当社は破産会社から賃借していた本件建物の使用を継続することができるでしょうか?また、当社は、破産会社に対して、敷金として賃料の6ヶ月分を差し入れていたのですが、差入れた敷金は全く返還されないのでしょうか?
破産手続が開始されると、裁判所から破産管財人が選任され(破産法74条1項)、破産財団に属する財産の管理及び処分権は、破産管財人に属することになります(同法78条1項)。
賃貸人が破産した場合、賃借人である御社が賃借権の登記を備えている場合や本件建物の引渡しを受けている場合等賃借権に対抗要件が備わっている場合には、破産管財人は解除権を行使することができないため(同法56条1項)、破産手続開始後も御社は賃借人として本件建物の使用を継続することができます。
破産手続開始後は通常は、破産管財人において、本件建物につき任意売却を試みることになります。買受希望者が現れた場合には、担保権者の同意を得たうえで、破産裁判所の許可を得て、任意売却することになります。この場合には、通常、破産管財人は従前の賃貸借契約をそのまま買主に承継し、敷金返還請求権についても買主に承継してもらいます。したがって、本件建物が任意売却された場合には、御社において本件建物の使用を引き続き継続することができますし、通常敷金返還請求権についても保護されることになります。
これに対し、破産管財人による任意売却が奏功せず、担保権者による不動産競売手続により競落された場合は一般的には、担保権者に対抗できない(担保権設定登記前に賃借権の対抗要件を備えていない)賃借人は6ヶ月間の明渡し猶予期間が与えられるのみであり(民法395条1項)、明渡しをしない場合には引渡命令によって、強制的に明渡しをさせられることもあります。この場合、敷金については、敷金返還請求権を破産債権として届出したうえで(配当原資がある場合には)配当を受けるにとどまります。したがって、不動産競売により競落された場合には、御社は明渡し猶予期間の範囲内でしか使用は継続できませんし、敷金返還請求権についても配当の限度でしか保護されないことになります。
なお、御社においては、破産管財人に本件建物の賃料を弁済するに際して、破産管財人に対して、将来の相殺に備えて弁済額の寄託を請求することができます(破産法70条)。これにより、御社が最後配当の除斥期間までに本件建物を明渡した場合には、敷金返還請求権と賃料支払い債務とを相殺することで、敷金返還請求権の限度で寄託金の返還を受けることができます。
「寄託請求」
賃貸人が破産した場合には、賃借人において破産管財人に対して行う寄託請求という制度があります。これにより、賃借人は事実上敷金返還請求権について返還を受けることができます。ただし、この適用を受けるためには最後配当の除斥期間までに賃借人が明渡しを完了しなければなりませんので、その点は注意する必要があります。