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取引先倒産における売掛金回収の方法

北野 誠| 2010年 10月号掲載

 取引先に商品を納入しましたが、取引先から売掛金を回収する前に取引先が破産してしまいました。当社が納入した商品は、未だ取引先の倉庫にあるようですが、倉庫にある商品から当社の取引先に対する売掛金を回収することはできるでしょうか?

 動産の売買においては、動産の代価及びその利息に関して、その動産について先取特権が存在します。先取特権とは、法定担保物件の一つであり、債務者の財産について、他の債権者に先立って自己の弁済を受ける権利のこといいます。そして、動産売買先取特権は、破産手続においては別除権と呼ばれ、破産手続によらずに行使することができます。

 動産先取特権により動産競売を開始するためには、(1)債権者が執行官に動産を提出した場合、(2)動産の占有者が差押承諾文書を提出した場合、(3)債権者が担保権の存在を証する文書を執行裁判所に提出して動産競売開始の許可決定を得たうえで、執行官に許可決定謄本を提出し、執行官の捜索の前又は同時に債務者に許可の決定が送達された場合のいずれかの要件を満たす必要があります。

 この点、(1)や(2)は破産管財人の協力が得られなければその要件を満たすことはできず、事実上行使することは困難です。しかしながら、売買契約書や納品書等がある場合には、それにより(3)の担保権の存在を証明して、動産競売開始の許可決定を得ることにより、優先弁済を受けることが可能です。

 しかしながら、売却後短期間のうちに動産競売を行わなければ、取引先又は破産管財人において既に納入した商品が転売がされているということもよくあり、その場合には、執行不能となり動産競売を行うことはできません。

 ただし、取引先が破産開始決定前に既に商品を転売している場合であっても、転売代金が取引先に支払われる前であれば、この転売代金債権を差し押さえることにより、他の債権者に優先して弁済を受けることが可能です。このような動産売買先取特権の効力を物上代位といいます。
したがって、御社としては、納入した商品が未だ取引先の倉庫にある場合には、売買契約書や納品書により担保権の存在を証明して、動産競売の申立てを行い、競売代金の中から優先弁済を受けることにより、売掛金の回収が可能となります。

 また、取引先において既に転売済みであっても、転売代金債権を特定し、納入した商品の転売代金である事を疎明して、債権差押申立を行い、優先弁済を受けることにより、売掛金の回収を図ることも可能です。

「動産売買先取特権」

動産先取特権を行使するためには、述べたような用件を充足する必要があり、売買契約書等の書面については特にきちんと管理しておく必要があります。また、動産先取特権については転売前に行使する必要があり、物上代位においても転売代金の支払い前に差押をする必要があるなどの要件がありますのでご注意ください。

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桜樹法律事務所の企業法務

熊本市出身、昭和55年生まれ。
済々黌高校-九州大学法学部卒。2003年司法試験合格。2005年弁護士登録。日本弁護士連合会民事介入暴力対策委員会委員。日本司法支援センター熊本地方事務局地方扶助審査副委員長。日本プロ野球選手会公認選手代理人。熊本県弁護士会野球部主将。

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